今日もぽれぽれ

「ポレポレ」とはスワヒリ語でのんびり、ゆっくりという意味です♡

奥様のお供でパーティーへ その1

別荘から戻り、住み込み生活から解放されたある日、奥様から明日はパーティーにあんたも連れていくから、派手でないそれなりの服で来なさいと言い渡されました。当時、持っていたそれなりの服といえば、金色の縁飾りのあるピンクハウスの黒のツーピースしかなく、それを着ていきました。

奥様はパーティー前に、資生堂ザ・ギンザでヘアーと着付けをするとのことで、私も荷物持ちとしてお供しました。

美容室に行くと、ヘアーと着付けの担当者がすぐに奥様のお支度をすることになりました。私は待合室でただ待っていればよかったのですが、気を効かせたスタッフさんが、私のヘアもセットいたしましょうか?と言ってきたのです。

私はけっこうですとお断りしたのですが、そのスタッフは二人分の方が儲かると思ったのか、奥様のところに行き、

「お嬢様のヘアセットもご一緒にいたしますけど?」と勧めたのでした。

「ええのよ、その人は娘じゃないし、私の付き添いなんだから」と奥様が応えると

そのスタッフは、なかなかあきらめが悪く

「どうせ、こちらでお待ちいただいているのですから、私どもも手が空いてますのでセットいたしますよ」と笑顔でねばる。

仕方なく、奥様もあきらめて

「じゃあ、さっさとやってもらいなさい」と私に言ったのでした。

 

すると、担当のスタッフは「編み込みにしたら今日のお洋服に絶対ぴったりです!」と言い、なんと、なんと、めちゃくちゃ面倒くさい編み込み作業を始めたのでした。

奥様はというと、髪の毛はパーマっ気ないストレートヘアなので、洗ってドライヤーセットしたらおしまいで、着物の着付けもチャッチャとやらせたせいか、あっという間に完了してしまいました。

そして、私のヘアーをやっているところに来るなり

「遅いわよ!まだやってんの?もう行くわよ!」と、イライラした様子で急かすのです。

「いえ、あのまだ片側半分の編み込みが残っているので、あともう少しお時間かかるのですが」と担当の女性がいうと

「ちょっと主役はこっちなんだから、もうそのまんまでいい!」

えええーーーー!!!!半分編み込みで終了かい!めっちゃパンクだぜ!

すると、慌てたスタッフが大急ぎでもう一名手の空いているスタッフを連れて来て、残りの片側をふたりがかりで大急ぎで編み込みし始めたのでした。

奥様が厳しい顔でにらんでいる横で、私は身動き取れず、店員との板挟みでいたたまれない気持ちでした。

ようやく私の編み込みが完了し、待たせていたタクシーで大至急会場のホテルに駆けつけると、「こちらです!早く!」と玄関で奥様を待っていた先生の秘書に急かされて、奥様と控え室にバタバタと急ぎ足。

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奥様は秘書と共に消えてしまい、取り残された私は荷物を控え室に置くと、ホテルのスタッフにパーティー会場に案内されたのでした。

会場に入ると吃驚の光景!黒っぽいビジネススーツの男、男、男・・・すごい人数集まっているのです。

ステージには「◯◯◯◯君を励ます会」と、先生のお名前がドッカーンと入った横断幕が!当時の私はろくに新聞も読まないし、政治なんて全く興味ない女子でしたので、なんというか、この情景はただただ異様でしかなく、え?これってなんなの?という感じでした。

奥様はそばにいないし、まさか、こんなパーティーだなんて知らなかったので、びっくり仰天した私はこの異様な群衆の中でひとり場違いな雰囲気を漂わせながらたたずむのでした。

すると、私を奥様に引き合わせた主治医の先生が私のところに近寄ってきて、「なーんだ、来てたんだね。すごいよねえ。こんなに応援にかけつけるひとがいるなんて。これが政治家のパーティーなんだねえ」とアルコールの入ったグラスを片手にニコニコ。

そうなんだ、これが政治家のパーティーなんだ。それにしても、普段ご自宅でしか存じ上げない先生も奥様も、こんなすごいひとだったんだと、頭がクラクラする思いでした。(つづく)

 

先生のおクルマに乗る

別荘でお客様をお見送りしたら、突然先生の「帰るぞ」の一声。

まだお食事の後片付けが手付かずだったので、私は大慌てで食器を洗おうとしていたら、奥様が「何やってんの、このまんまでいいのよ。あとは片付けてもらえるから、早くクルマに乗りなさい」

クルマって?先生の??

そう、私と奥様は行きはハイヤーで別荘まで来たのでした。ハイヤーを手配してないし、もしかして、先生のおクルマのこと?

先生はとにかく、ものすごいせっかちなので、もうクルマに乗り込んでしまわれたのでした。私は取るものも取り敢えず大急ぎで荷物をつかみ、そのまんまの状態、つまりエプロン姿で玄関に飛び出しました。

すると、よくVIPが乗るような高級大型黒塗りベンツが駐車しており、中を見ると助手席に先生が椅子を思いっきり後ろに引き、足を伸ばしてお座りになっていました。

そして奥様はというと、左ハンドルの運転手さんの真後ろに座られているので、え?え?私って、先生の真後ろの席なんですか?この場所って、一般的には、要人のお席なのでは?と戸惑っていると、

「早くそっちから乗りなさい!」と奥様が急かすので、恐る恐る奥様の隣、先生の真後ろの席に乗り込みました。

私が乗ると、クルマはすぐに出発。

別荘の管理人の奥さんがニコニコと手を振ってお見送りしてくださり、奥様は「あとはよろしくお願いしますね」と手をあげてご挨拶。私は台所やリビングを後片付けできないまま出発することに、ただただ申し訳なく何度も頭を下げたのでした。

走り出すと、先生はお疲れになったのか、すぐさまおやすみになられ、車内はラジオをつけるわけもなく、私語もないので全くの無音状態。本当なら最高の乗り心地の高級ベンツの後部シートに座っているというのに、先生の背を倒したシートの後ろで、私は身動きも取れずに、息を殺して小さく固まっていました。

高速道路に入ると、運転手はスピードをあげたのでしょうか、奥様は時々身を乗り出して、スピードメーターを監視します。そして、飛ばしてることに気づくと

「ちょっと、あんた、スピード出し過ぎで危険やないの!」と運転手の頭をちょんちょんとこずくんです。そして、またしばらくすると今度は「冷房効きすぎやないの!えらい寒いわあ!もっと温度上げてちょうだい!」と、またこずく。

私などは、奥様のその行為の方が運転の妨げになりよっぽど危険なんじゃないかと思うのですけれども、奥様はおかまいなしでした。運転手さんはというと、いつものことなのか、はいはいって感じの対応で上手にかわしてました。

そして、しばらくすると、夜道の高速、ふと隣を走行するダンプカーの高い助手席から見下ろす視線を感じるようになりました。

同じ方向に向かって走っているので、抜きつ抜かれつ同じダンプがそばに寄ってくるので、どうしても気になる私。

あちら側では、きっと、こんな高級車にどんな人が乗っているのかと、退屈しのぎにのぞいていたのだと思います。それがVIP席に、原田治イラストの真っ黄色のエプロン姿の女が鎮座しているのだから、そばに寄ってくる度に、二度見、三度見。しまいには笑いながら手を振ってくる始末。先生は前で熟睡されているので、まさか先生に手を振ってるわけはないだろうから、後部座席に座る謎のエプロン女性の私にだろうな(汗)

やがて、車内は政府要人とその奥様と、どうでも良いエプロンの要人を乗せ、ようやくマンションに着いたのでした。そして、奥様付きお手伝いさんの私は身にあまるVIP席から解放されたのでした。やれやれ

 

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それにしても、先生はもともと大企業の社長さんだから、こんな立派なおクルマに乗り立派なお住まいに住んでいらっしゃるわけなのですが、ちっともぶらないし、怒らないし、身近で普段の先生を拝見しながら、大物というのはこういう人物なのだなと思ったのでした。

一方、奥様も「主人がね、『もしかしたら今度ばかりは会社が危なくなるかもしれないよ』と言ったことがあったのね、その時『あなたが無一文から起こした会社なんですから、また無一文になろうと、私は大丈夫です』って言ったのよ」と、私にお話されたので、奥様のケチケチ生活も根底に先生との強い絆の上にあるのかもしれないと思ったのでした。

 

間が悪い奥様

別荘二日目、先生や秘書、運転手の方達への早朝の準備で、ずっと慌ただしいのですが、皆がおでかけになってしまうと、少し一段落。朝食のあと、奥様から近所のホテルにあるキャロットケーキが美味しいと聞いたので、私はひとり散歩ついでに買いに行くことに。ちょっとだけ別荘住人気分に浸ってリッチな時間を過ごしてました。

 

そうそう、奥様は長くいけばなをやっていたのですが、お華の先生とお知り合いの奥様を数名招いて月に1〜2度、お住まいのマンションの一部屋を先生のために提供していました。そのおかげで、私も安いお月謝で華道のお道具を揃え、いけばなを習う機会を得たことは、とてもありがたい経験でした。

 

そのお流派は「余分な枝を切り落としながら、いけている自分の精神を高めて豊かな心を養い花を自然にあるがごとく生ける」みたいな感じでしたが、本当のところは何回も参加してなかったので、言葉で言いあらわせるほど理解できてません。

そういうわけで、日頃も、奥様は花を愛でることがとてもお好きだったので、午後になって少し小雨が降っている中、レインコートをひっかけて「山にススキを取りに行ってくる」とお出かけになってしまいました。その少し前に、先生がもう少ししたらお客様を連れて戻るとお電話があったにもかかわらず、プラっと出て行ってしまったのでした。

 

留守番をしている私は気が気ではありません。初めて来た別荘で、台所事情もよくわからない上、これから何人のお客様がみえるのかもさっぱりわからないのに、奥様は山へ芝刈りに、ではなく、山へススキを取りに出かけてしまったのです。私は実家で来客がある場合には、あらかじめお客様の人数を把握し、お茶菓子・おしぼり・お湯のみと茶托をお盆に乗せてきちんと準備するというふうに母からしつけられていたので、奥様のいきあたりばったり的な行動に、ものすごい不安を感じてしまうのでした。

 

案の定玄関がピンポンされ、先生を筆頭にドヤドヤとお客様が大勢入っていらっしゃいました。玄関でお出迎えした私に先生はすぐさま「奥さんは?」と尋ねました。

「はあ〜、それが、その、山にススキを取りに」とささやくような声で応える私。

ふざけんなーですよね。でも、先生は全然怒ったりしません。

最後に入って来たかばん持ちの秘書も「奥様は?」と聞くので、同じように応えると、秘書はちょっとイヤな顔をして「さっき、電話したやないか!」と私に文句を一言。そんなこと言ったって、奥様のやることを止められるひとはいないのです。

 

ま、そんなんで、仕方なく別荘管理人の奥さんと私とで、お茶の準備をして、お出しし終わった頃、奥様がレインコート来て、風に吹かれて、ススキを手に戻って来たのでした。もう!って感じですが、奥様は泰然として「何人?」なんて言う有様で、反省も慌てる様子もありません。人間の器がでかいのか、アバウトなのか。。。(涙)

 

その一連のお客様がおかえりになり、夜は夜でまた来客があり、接客も気が抜けません。その日の夜は、たしかすき焼きで、お鍋だから材料とお酒さえ出してしまえば、あとは少しのんびり。デザートの果物を用意して、いつ出そうかタイミングを考えていた時、奥様が急に「ちょっと私、お風呂に入ってくる。」と、台所から姿を消してしまいました。まあ、デザート出してからお客様のお帰りだと思うから、まだ大丈夫かなと思っていたら、突然ダイニングから先生が「はい、お客様おかえり!」と叫んだのでした。

ええーーーー!!!

と私は慌てて、浴室の扉をドンドンとたたきながら、「奥様〜!奥様〜!」

すると鍵がガチャリと開いたので、失礼かと思いながらドアを少し開けて、

「奥様、お客様がお帰りになります!」というと

脱衣室で髪の毛ビショビショに水が垂れてバスタオルをまとっただけの素っ裸の奥様が

「ダメよ。スッポンポンや」と一言。

なんで、なんで、そういつも間が悪いの!と、あきらめて玄関にいくと、お客様と先生は奥様をお待ちの様子でした。

ふたたび先生が「奥さんは?」と尋ねました。お客様を玄関でお待たせしていたので、ちょっとだけピリピリした声でした。

「それが、そのお〜、お風呂に入られて・・・」とささやくような声で私。

「すいません、家内はちょっと出られませんので」と先生。

「いえ、もう、そんな大丈夫です。では、これで失礼します。」とお客様。

 

お風呂からあがり、さっぱりした奥様が登場しても、もはや、その場にいらした誰も何もおっしゃりません。きっと、このようなドタバタ、しょっちゅうあるのでしょうね。とはいえ、私はまだそういう修羅場に慣れていなかったので、ドッと疲れが押し寄せたのでした。まったく〜!

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大物政治家の別荘に行く!

奥様は前もってあまり予定を話しません。

ある日、私は奥様とご一緒に箱根にある温泉付きの別荘に行くことになりました。ワーイ!温泉に入れる!と、上機嫌だった私は、奥様という人をまだちゃんと理解していませんでした。

 

別荘はにぎわいのある観光地から少しはずれたところにありました。静かで、ススキが多く生い茂っている土地です。周囲は、企業の保養所やこじんまりしたホテルがあるだけ。そして、大物政治家さんの別荘はというと、豪華な外国の山小屋風で、大きな梁をめぐらした重厚なインテリアで、それはそれは美しい別荘した。そして、この別荘には、ここを管理するご夫婦がいらして、その奥方が食事のしたくや、お風呂の準備など細々としたお世話はしてくださるとのことでした。家政婦みたいな仕事じゃなくてラッキー!

 

着いて、私に別荘内を案内してくれた奥様は、ここの応接間は床暖房なのよとおっしゃり、それが大層ご自慢のようでした。当時はまだ床暖房も珍しく、たしかに、床がホカホカと暖かく、とても心地よいものだと思いました。

奥様は一息つくと、「せやせや、洗濯物!」とおっしゃり、応接間に洗濯物を運びました。

「何してんの、突っ立てないで、早くこの洗濯物を一緒に床に広げて!ただつけてるだけじゃもったいないからね」

別荘に持ってきて乾かそうと、乾ききらない洗濯物を持って来たのか?

「でも、そんなことして、お客様が見えたらどうするんですか?」と私が聞くと

「そんなの、サーっと片付ければえやないの!」と奥様

 

美しい応接間の家具と家具の隙間に、先生の下着が!

「もう〜、うちのひと、大きいから洗濯物がなかなか乾かないのよ」と奥様

先生のお寝巻きの大きな浴衣まで!広くて素敵なインテリアの応接間が、あっという間に洗濯物で散乱した状態になりました。奥様は「お部屋は温いし、洗濯物は乾くし、一石二鳥や」と、いつもの上機嫌。

 

さて、今回別荘に来た本当の目的は、東京ではなかなかゆっくりお話できない方に別荘までお越しいただき、先生とお話をするというもので、私はどうやらその接客のお手伝いのようでした。先生だけは、よく週末ゴルフをしに別荘にはいらしていたようですが、今回はゴルフ抜きだったので、私たちの後に、先生が東京から別荘にお越しになるというご予定でした。

 

玄関でピンポンと音がなり、先生かと思いきや、お客様の方が先にお着きになり、奥様はニコニコと玄関でお出迎え。そして、あの、例の応接間にお通ししようとしているではないですか!そう、奥様は、案の定、床にぶちまけた洗濯物のことをすっかりと忘れていたのです。

脇でその様子を見ていた私、大ピンチに心臓がバクバク鳴りだしました。どうしよう、どうしよう、先生のブリーフがあっちにもこっちにも散乱しているというのにーーー!!

とっさに、お客様には大変失礼かとは思いましたが、私は奥様がどうぞとお客様に差し伸べた手の下をくぐりまして、応接間の床を這いずり回り、洗濯物を拾う!拾う!ものすごい速さで!もう、床の洗濯物をわしづかみでガーっとかき集めて胸に抱きかかえ、「失礼しました!」と言って、応接間から脱出したのでした。

 

お客様へのお茶出しの準備をしていたところに、応接間から出て来た奥様に向かって

「勘弁してくださいよ、奥様。だから、お客様が見えたらどうするんですかと言ったじゃないですか!」というと、奥様はケタケタ笑いながら

「ちゃーんと、あんた、拾い集められたじゃないの」と。

大物政治家の奥様は、物事に動じないんですよねえ〜。

そのぶん、私の寿命が縮まりました。はい

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悲劇は浴室で起こった

私が大物政治家のご自宅で、奥様のお手伝いをさせていただき、しばらくたったある日、連日遅くまで居残りしている若い娘を夜遅くに帰宅させるより、住み込ませた方がいいと考えたようで、私は家に帰れなくなりました。

それって住み込みのお手伝いさんじゃないですか!ガーン( ̄◇ ̄;)

しかし、当時の私は奥様の無理難題にいつもいやとは断れず、通いから住み込みになってしまいました。それというのも、家政婦さんがすぐにやめてしまうからです(シクシク・・・)

「朝は先生は5時半に起きるけれど、あんたは6時半でええわ」と奥様の優しい言葉。いや、優しくなんかない!夜遅くまで働かされているのだから!

 

そうそう、しかもですよ、夜は、先生、奥様と入った残り湯のお風呂に入れというのです。当時、ホテルのような洋バスのお風呂には蓋がありませんでした。それで、結婚式等の折り詰めに使われていた白い水玉柄のビニールの風呂敷を2枚、浴槽のお湯に空気が入らないようにベターと貼って蓋代わりにするというのを、奥様が考案したのでした。「ビニールの風呂敷をお風呂の蓋代わりに」とお得意の笑顔で私に伝授。

しかし、先生が入ってから奥様がそのように蓋をしても、夜の仕事全部完了して私が入る番の時には、すっかりと冷めてました(涙)というか、他の部屋にあるお風呂を使わせてくれーと言いたかったけれど、奥様は無駄が大嫌いだから、そんなことを許すはずがありません。

湯面に貼りついたビニールをはがして、タオルかけのところにそれをぶる下げ、お風呂につかるのですが、びっくりするほどぬるいお風呂でした。長者番付けにものっているくらいの大物政治家のご自宅なのに、庶民にも劣るドケチっぷりの生活でした(シクシク・・・)

 

そんなある日、奥様は病院に検査入院するとおっしゃり、私はなんと一切の家事をまかされてしまいました。

まあ、日中は先生はいらっしゃらないので良いのですが、これから帰宅するという秘書からのお電話が入ってからが大変。

 

当時先生のご自宅で飼っていたワンちゃんは昼間ほとんど眠って過ごしていたのですが、先生のおクルマがマンション近くまで来て運転手さんがクラクションを1回鳴らすと、それを合図にムクっと起き上がり玄関に移動してワンワンと吠え始めます。私はその鳴き声を聞いて、台所の食器棚引き出しから煮干しを取り出し玄関で待機。

エレベーターを降りられ、ワンちゃんが嬉しくお迎えするので、先生に煮干しをお渡しすると、先生はすかさずそれをワンちゃんにあげるというお迎え行事があります。猫じゃなく犬なのに煮干しなのか?と思いましたが、継続して続けられているルーティーンのお迎え行事に口出しはできません。

 

ご帰宅すると先生はお着替え前にお風呂に入られるので、私はすぐに浴室に行きお風呂にお湯を溜めます。今のようにボタン一つで自動でお湯が入るような仕組みはなかったので、カランで湯加減を調節しつつお湯を出し、頃合いを見計らって止めます。

 

そして、リビングのデスクの上にある郵便物をチェックされている先生に「お風呂の準備ができてますので、いつでもどうぞ」とお声をかけるわけです。無口な先生は「ん」と一言。

私は今一度湯加減を見ておこうと浴室に行くと、なんと、その日に限って、浴槽の栓に隙間があいていたのか、一度溜まっていたはずのお湯がなんとすっかり抜けていて、空っぽになっていたのでした。

 

さらに運が悪いことには、お召し物をすべて脱いだ先生が前を隠しながら浴室に向かって来ていたのでした。ギョエー!

私はほぼ悲鳴に近い状態の大声で、「すみません!お風呂の栓が抜けてました!今しばらくお待ちを!」と叫ぶと、先生は「あ、そう」と一言、クルっと後ろに向きを変えてお部屋に戻られたのでした。韓流時代劇ドラマだったら、打ち首ものの大失敗だというのに、私のことを怒鳴ったり、咎めたりすることもなく素っ裸で立ち去る先生。ああ・・・先生のお背中とお尻のお優しいこと!

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その後は、夕飯でまた大失敗。

私はビタクラフトなどという高級ステンレス鍋を扱ったことがなかったのに、私の得意料理のひとつのゆで豚を先生に作ってさしあげようとしたのですが、火通りが私の予想をはるかに越えていたため、私が鍋のふたを開け、ゆで豚を取り出し、タコ糸をほどこうとしたら、悲しいことにお肉の塊がホロホロに崩れてしまったのでした。形を失いグチャグチャになってしまったお肉をどうしたものかしばらく悩んでましたが、先生は鰻が大好物だったことを思い出し、その柔らかいお肉をいっそ甘辛いタレで味付けしてお出ししようと腹をくくりました。

深めの大きなお丼に、ゆでたほうれん草を敷き、その上に柔らかく形を失った豚のお肉をこんもりとのせて、その上から甘辛いタレをいっぱいかけました。

先生が召し上がるのをドキドキしながら、そばで見ていた私。

すると、無口で滅多に私などにお声をかけない先生が

「これ、あんたが作ったの?美味しいよ」

とおっしゃったのです。

いや〜、お風呂の失敗の上に、お食事の失敗では、もう立つ瀬がないと自信喪失していたのですが、どうやら名誉挽回できたようで、ホッと一安心。全く、奥様、あれもこれもやらせて、本当に人使いが荒いと思ったのでした。

しかし、プロの家政婦でもすぐに辞めてしまうというのに、私も意外と根性あったみたいです。

 

 

れんたん事件

私が以前勤めていた会社は残業が多かったので、今度は定時で帰れる楽な仕事がいいと思い、政治家奥様のお手伝いを始めたのでしたが、始めてみると楽な仕事に思えなくなってきました。

 

なぜならば、家事のお手伝いをしてくれる家政婦協会派遣されてきた、プロの家政婦さんがすぐにやめてしまうからです。

考えられる理由をあげてみました。

洗濯はというと、洗濯機を使わせてくれず、浴室の残り湯で手洗いさせられる。

台所では、食器洗いに必要な洗剤もなく、スポンジもなく、あるのは奥様がかつて履いていた白い靴下の足首から下部分で、お湯は使えずお米のとぎ汁と冷たいお水で洗わされる。

お昼の食事は、出るには出るのですけれども、朝食後に電源を切られた炊飯ジャーに入っている冷めたご飯と残っていれば味噌汁と意味不明なおかずのみ。

 

一応家政婦協会といえば、大使館などでも勤務するようなプロの家政婦さんです。本来のやり方で家事をやらせてもらえたならば、普通の主婦には真似できないくらいのプロ意識でお仕事なさる方達なのではないかと思います。

それが、先生と奥様が入られた翌日の浴槽の残り湯で、手でゴシゴシと洗濯をし、ギューっとしぼるのです。奥様の指示で、ハンカチは窓ガラスにペターっと貼りつけてシワをのばし乾かします。食器洗いも、裏返しにした奥様の靴下とお米のとぎ汁で洗うのですから、正直つらいだろうと思いました。

そして、家政婦さんが辞めると、こちらも見かねて家事までお手伝いすることになるので、気がつくと私の仕事がどんどんと増えていきました。

 

記者さん達へのお茶出しのためにお湯を沸かす話は前回書きましたが、来客も多かったので、とにかく四六時中お湯を沸かす必要がありました。あるとき、奥様と地下の倉庫にモノの出し入れで行ったときに、練炭練炭コンロを奥様がみつけてしまいました。奥様はすぐさま、これでお湯を沸かしたらガス代もかからないから、これを上に運び、練炭に火を起こそうと言い出しました。新しい節約のタネを発見したときの奥様の喜びようはまるで子供です。上に運び、ベランダで早速奥様と一緒に火をつけました。が、なかなかつきませんでした。ようやくついた感じだったので、ベランダから離れて他の用をしていると、なんと真っ黒な煙がモクモクと立ち上っているではありませんか!

超高級マンションですよ。しかも高層階のベランダから煙がモクモクと出始めたのですから、とっさにこれはヤバイと思いました。

「奥様、ベランダでインディアンののろしのような黒煙があがってます!!!」と叫んだら、奥様がなんとそれを見て「ありゃりゃ、すぐにコンロをエレベーターホールに運んで!」とおっしゃるので、煙が出て火のついたコンロは熱いのですが、持って運びましたよ。持ち上げて運び始めると、練炭の熱気と煙が自分に向かってくるので、すごい恐怖でした。

エレベーターホールに置いてしばらくすると煙がおさまり、奥様はコンロの上にやかんをのせてご満悦でした。あの当時は火災報知器がなかったようで、大きなサイレンがマンション中に響かず本当に良かったです。それにしても、いくらワンフロアーを所有しているからといって、エレベーターホールの中央で練炭コンロを置きお湯を沸かしている奥様は、本当にトラブルメーカーで次に何をしでかすのかと思うとドキドキものでした。

家に戻り、その話を母にしたら、「なんて危険なことを!一酸化炭素中毒にでもなったらどうするの!」と注意されました。翌日マンションに行ってみると、エレベーターホールには練炭コンロが置かれていなかったので安心し、ただ奥様には一酸化炭素中毒の話を申し上げました。そしたら、奥様は翌日にはすっかり練炭のことを忘れていたのに、私がその話をしたために

「そや!忘れてた!練炭やがな!今日も火をつけてお湯を沸かそう」と、逆に思い出させてしまい、再び練炭コンロをエレベーターホールに持ち出したのでした。ほんと、懲りない奥様です(笑)

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さんま騒動

政治家のお宅は、びっくりするほど宅配物が多い。

そのほとんどが産地直送のダンボールで送られてくる農産物でした。実りの秋、果物のダンボールが次々に届く、なんていうと一見羨ましく思うかもしれませんが、玄関に届いた重たいダンボールをいくつも部屋の奥まで運び入れるという作業がまず一苦労でした。

また、運ぶだけで終わらず、そのダンボールに貼られている宛名書きをそろりそろりとはがして、茶色っぽいわら半紙に貼りつけ、誰から何が送られて来たのかがわかるように横にメモしておくというのも仕事でした。その宛名ラベルはひとまわり大きい縁部分がベタベタとした粘着テープに覆われていたのですが、奥様はそのベタベタがセロテープ代わりに使えるといって、その部分をハサミでカットして、事務デスク下部の見えにくい場所に貼っておけとおっしゃるんです。そして、ダンボールの中に名刺が入っていたりした場合には、その貼り付けておいたベタベタシールで、宛名ラベルの横に一緒に貼っておきなさいと。

毎日、届くダンボールからベタベタ部分をカットしてデスク下部に貼り付けるものだから、デスクの下部とサイドは、ベタベタシールで実におぞましい状態になってかっこ悪いのですけれども、奥様はそんなことは全く気にしません。むしろ「セロテープ買わんでもいいやな」と喜んでいる始末でした。

 

そして、その宛名を見つつ、奥様はくださった方お一人お一人にお礼状の葉書を書くようにおっしゃいました。印刷ではなく奥様の達筆な文字に似せて私が手書きでです!送り主の場所には、先生のお名前を書いてその横に「内」と書くのですよ!私が奥様に「いいんですか?私が内なんて書いてしまって」というと、どうせわからないから大丈夫だと。ま、そうかもしれませんけれども、書きながら、なんだか申し訳ないような気持ちになりました。

そして「もうこのようなお気遣いは一切ご遠慮申し上げます」と一筆入れているにもかかわらず、宅配物が届くのだから、えらい人の暮らしもなかなか大変です。なぜなら、こんなことのために、私のような人間を雇わなくてはならないのですから。

 

まあこんな仕事がメインなので、きれいな格好なんてしていられません。私もすぐさま汚れてもいいような普段着に近い格好で毎日通い始めました。奥様は、先生の着古したワイシャツを襟と袖をカットして、割烹着がわりにして日常着ていらっしゃいました。「こんなんでもな、いいワイシャツ生地やから、ただ捨てるんじゃもったいないやろ?」と。主婦の鑑です。そして、スリッパではなく、共用トイレや手術室とかにあるようなピンクや水色のゴムっぽいサンダル、あれを履いていらして、プライベートの部屋からエレベーターホールを抜けてお客用の部屋に移動する際は、玄関たたきに濡れた雑巾を広げておいて、「よーく見とき!」と、そこでチャッチャと可愛く足踏みしてサンダルの汚れを落としてから室内にあがるという凄技を私に披露したのでした。

 

ある日のこと、どうも開け放したベランダの方から、魚が腐ったような異臭がしてきました。私が奥様に「なんか臭うんですけれども」とベランダを指差して言うと、奥様が「ああ、そやそや!大変!秋刀魚をたくさんにもらってベランダに置きっぱなしにしてたんや!」と。二人してベランダに出ると、たしかに発泡スチロールの大きな箱が置いてありました。おそるおそる蓋を開けると、プーン!という異臭のもとは、ビニールにびっしりと入っている秋刀魚でした。おそらく氷が沢山入っていたので、奥様も最初はそこに置かれたのかと思いますが、すでに氷は溶けて水になっていました。

「これ、あかんかしら?いや、まだもらってそない経ってないと思うから、そや、あんたんち家族いるから、これみんな持って行き!」と奥様はおっしゃったのでした。

その日はちょうど大雨が降っていたので、私はレインコートに膝までくる長靴を履いてたのですが、その格好で紐付きの大きな発泡スチロールの箱を持つと、もう魚市場で働いている人みたいな感じでした。「もう今日はそれ持って帰っていいから」と言われたので、エレベーターホールでボタンを押して待っていると、奥様が「何やってんの!もう記者がエレベーターで上がってくる時間なんやから、そんな格好でみっともないから階段で行き!」と一括され、10階以上はあるというのに、魚の入った重たい発泡スチロールを持ちながら、階段で下までおり、雨も降っていたので仕方なくタクシーで家に帰ったのでした。

家に着くやいなや、私は異臭のする発泡スチロールを母に手渡しました。母は秋刀魚を見てびっくり仰天。そして「腐ってるんじゃないの?」と臭いを確認し不機嫌な母。

「あ、そうだ、奥様がサンショウの実をくれたの。これで煮たら美味しいって」と、私。

最初不機嫌そうな母でしたが、秋刀魚の状態を見てまだ大丈夫な気がしたのか、突然大きなまな板の上で面倒だからと骨も取らずに、包丁で叩きミンチにして、大鍋に調味料と生姜やサンショウの実を入れて、結局夜遅くまで大騒動で秋刀魚と格闘するはめに。

翌朝になると、母はすっかり機嫌よくなっており、「ちょっと食べてごらん。すごく美味しい秋刀魚のフレークができたから」と、煮汁をよく吸い込んだ秋刀魚を試食させたのでした。

 

秋刀魚は大好きですけれど、あの日のさんま騒動は今も忘れられません(笑)

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