今日もぽれぽれ

「ポレポレ」とはスワヒリ語でのんびり、ゆっくりという意味です♡

さんま騒動

政治家のお宅は、びっくりするほど宅配物が多い。

そのほとんどが産地直送のダンボールで送られてくる農産物でした。実りの秋、果物のダンボールが次々に届く、なんていうと一見羨ましく思うかもしれませんが、玄関に届いた重たいダンボールをいくつも部屋の奥まで運び入れるという作業がまず一苦労でした。

また、運ぶだけで終わらず、そのダンボールに貼られている宛名書きをそろりそろりとはがして、茶色っぽいわら半紙に貼りつけ、誰から何が送られて来たのかがわかるように横にメモしておくというのも仕事でした。その宛名ラベルはひとまわり大きい縁部分がベタベタとした粘着テープに覆われていたのですが、奥様はそのベタベタがセロテープ代わりに使えるといって、その部分をハサミでカットして、事務デスク下部の見えにくい場所に貼っておけとおっしゃるんです。そして、ダンボールの中に名刺が入っていたりした場合には、その貼り付けておいたベタベタシールで、宛名ラベルの横に一緒に貼っておきなさいと。

毎日、届くダンボールからベタベタ部分をカットしてデスク下部に貼り付けるものだから、デスクの下部とサイドは、ベタベタシールで実におぞましい状態になってかっこ悪いのですけれども、奥様はそんなことは全く気にしません。むしろ「セロテープ買わんでもいいやな」と喜んでいる始末でした。

 

そして、その宛名を見つつ、奥様はくださった方お一人お一人にお礼状の葉書を書くようにおっしゃいました。印刷ではなく奥様の達筆な文字に似せて私が手書きでです!送り主の場所には、先生のお名前を書いてその横に「内」と書くのですよ!私が奥様に「いいんですか?私が内なんて書いてしまって」というと、どうせわからないから大丈夫だと。ま、そうかもしれませんけれども、書きながら、なんだか申し訳ないような気持ちになりました。

そして「もうこのようなお気遣いは一切ご遠慮申し上げます」と一筆入れているにもかかわらず、宅配物が届くのだから、えらい人の暮らしもなかなか大変です。なぜなら、こんなことのために、私のような人間を雇わなくてはならないのですから。

 

まあこんな仕事がメインなので、きれいな格好なんてしていられません。私もすぐさま汚れてもいいような普段着に近い格好で毎日通い始めました。奥様は、先生の着古したワイシャツを襟と袖をカットして、割烹着がわりにして日常着ていらっしゃいました。「こんなんでもな、いいワイシャツ生地やから、ただ捨てるんじゃもったいないやろ?」と。主婦の鑑です。そして、スリッパではなく、共用トイレや手術室とかにあるようなピンクや水色のゴムっぽいサンダル、あれを履いていらして、プライベートの部屋からエレベーターホールを抜けてお客用の部屋に移動する際は、玄関たたきに濡れた雑巾を広げておいて、「よーく見とき!」と、そこでチャッチャと可愛く足踏みしてサンダルの汚れを落としてから室内にあがるという凄技を私に披露したのでした。

 

ある日のこと、どうも開け放したベランダの方から、魚が腐ったような異臭がしてきました。私が奥様に「なんか臭うんですけれども」とベランダを指差して言うと、奥様が「ああ、そやそや!大変!秋刀魚をたくさんにもらってベランダに置きっぱなしにしてたんや!」と。二人してベランダに出ると、たしかに発泡スチロールの大きな箱が置いてありました。おそるおそる蓋を開けると、プーン!という異臭のもとは、ビニールにびっしりと入っている秋刀魚でした。おそらく氷が沢山入っていたので、奥様も最初はそこに置かれたのかと思いますが、すでに氷は溶けて水になっていました。

「これ、あかんかしら?いや、まだもらってそない経ってないと思うから、そや、あんたんち家族いるから、これみんな持って行き!」と奥様はおっしゃったのでした。

その日はちょうど大雨が降っていたので、私はレインコートに膝までくる長靴を履いてたのですが、その格好で紐付きの大きな発泡スチロールの箱を持つと、もう魚市場で働いている人みたいな感じでした。「もう今日はそれ持って帰っていいから」と言われたので、エレベーターホールでボタンを押して待っていると、奥様が「何やってんの!もう記者がエレベーターで上がってくる時間なんやから、そんな格好でみっともないから階段で行き!」と一括され、10階以上はあるというのに、魚の入った重たい発泡スチロールを持ちながら、階段で下までおり、雨も降っていたので仕方なくタクシーで家に帰ったのでした。

家に着くやいなや、私は異臭のする発泡スチロールを母に手渡しました。母は秋刀魚を見てびっくり仰天。そして「腐ってるんじゃないの?」と臭いを確認し不機嫌な母。

「あ、そうだ、奥様がサンショウの実をくれたの。これで煮たら美味しいって」と、私。

最初不機嫌そうな母でしたが、秋刀魚の状態を見てまだ大丈夫な気がしたのか、突然大きなまな板の上で面倒だからと骨も取らずに、包丁で叩きミンチにして、大鍋に調味料と生姜やサンショウの実を入れて、結局夜遅くまで大騒動で秋刀魚と格闘するはめに。

翌朝になると、母はすっかり機嫌よくなっており、「ちょっと食べてごらん。すごく美味しい秋刀魚のフレークができたから」と、煮汁をよく吸い込んだ秋刀魚を試食させたのでした。

 

秋刀魚は大好きですけれど、あの日のさんま騒動は今も忘れられません(笑)

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