奥様のお供でパーティーへ
別荘から戻り、住み込み生活から解放されたある日、奥様から明日はパーティーにあんたも連れていくから、派手でないそれなりの服で来なさいと言い渡されました。当時、持っていたそれなりの服といえば、金色の縁飾りのあるピンクハウスの黒のツーピースしかなく、それを着ていきました。
奥様はパーティー前に、資生堂のザ・ギンザでヘアーと着付けをするとのことで、私も荷物持ちとしてお供しました。
美容室に行くと、ヘアーと着付けの担当者がすぐに奥様のお支度をすることになりました。私は待合室でただ待っていればよかったのですが、気を効かせたスタッフさんが、私のヘアもセットいたしましょうか?と言ってきたのです。
私はけっこうですとお断りしたのですが、そのスタッフは二人分の方が儲かると思ったのか、奥様のところに行き、
「お嬢様のヘアセットもご一緒にいたしますけど?」と勧めたのでした。
「ええのよ、その人は娘じゃないし、私の付き添いなんだから」と奥様が応えると
そのスタッフは、なかなかあきらめが悪く
「どうせ、こちらでお待ちいただいているのですから、私どもも手が空いてますのでセットいたしますよ」と笑顔でねばる。
仕方なく、奥様もあきらめて
「じゃあ、さっさとやってもらいなさい」と私に言ったのでした。
すると、担当のスタッフは「編み込みにしたら今日のお洋服に絶対ぴったりです!」と言い、なんと、なんと、めちゃくちゃ面倒くさい編み込み作業を始めたのでした。
奥様はというと、髪の毛はパーマっ気ないストレートヘアなので、洗ってドライヤーセットしたらおしまいで、着物の着付けもチャッチャとやらせたせいか、あっという間に完了してしまいました。
そして、私のヘアーをやっているところに来るなり
「遅いわよ!まだやってんの?もう行くわよ!」と、イライラした様子で急かすのです。
「いえ、あのまだ片側半分の編み込みが残っているので、あともう少しお時間かかるのですが」と担当の女性がいうと
「ちょっと主役はこっちなんだから、もうそのまんまでいい!」
えええーーーー!!!!半分編み込みで終了かい!めっちゃパンクだぜ!
すると、慌てたスタッフが大急ぎでもう一名手の空いているスタッフを連れて来て、残りの片側をふたりがかりで大急ぎで編み込みし始めたのでした。
奥様が厳しい顔でにらんでいる横で、私は身動き取れず、店員との板挟みでいたたまれない気持ちでした。
ようやく私の編み込みが完了し、待たせていたタクシーで大至急会場のホテルに駆けつけると、「こちらです!早く!」と玄関で奥様を待っていた先生の秘書に急かされて、奥様と控え室にバタバタと急ぎ足。
奥様は秘書と共に消えてしまい、取り残された私は荷物を控え室に置くと、ホテルのスタッフにパーティー会場に案内されたのでした。
会場に入ると吃驚の光景!黒っぽいビジネススーツの男、男、男・・・すごい人数集まっているのです。
ステージには「◯◯◯◯君を励ます会」と、先生のお名前がドッカーンと入った横断幕が!当時の私はろくに新聞も読まないし、政治なんて全く興味ない女子でしたので、なんというか、この情景はただただ異様でしかなく、え?これってなんなの?という感じでした。
奥様はそばにいないし、まさか、こんなパーティーだなんて知らなかったので、びっくり仰天した私はこの異様な群衆の中でひとり場違いな雰囲気を漂わせながらたたずむのでした。
すると、私を奥様に引き合わせた主治医の先生が私のところに近寄ってきて、「なーんだ、来てたんだね。すごいよねえ。こんなに応援にかけつけるひとがいるなんて。これが政治家のパーティーなんだねえ」とアルコールの入ったグラスを片手にニコニコ。
そうなんだ、これが政治家のパーティーなんだ。それにしても、普段ご自宅でしか存じ上げない先生も奥様も、こんなすごいひとだったんだと、頭がクラクラする思いでした。