先日、実家にとってとても大切な方が享年99歳で天寿を全うされました。戦後はいっとき、一つ屋根の下で共に生活をしており、つまり、母が嫁ぐ前からのおつきあいなので実家にとっては親戚以上の関係でした。
兄が訃報を知らせた時、母は突然シャキンとして、「私がおわかれに行かなくちゃ」と言ったそうです。
この年のはじめ、女学校時代の親友が亡くなった時は「とても行けないわ」と言っていた母でしたが、今回は全く違って、それこそ自分の身体の今の状態を忘れていたかのようでした。
当然、私もおわかれに駆けつけたかったので、急遽、納棺前に母を連れて兄の運転で出かけることになりました。
母が家の外に出たのは、何ヶ月ぶりだったのでしょう?1年ぶり?もっと?
認知症が進行していた最近の母は、悲しい話をしても楽しい話をしても、あまり感情を表すことなく、他人事のように「そうなの」と相槌を打つ程度でした。そんな母が、この日だけは別人のようにシャキンとなったので、私たち家族はびっくりしました。
クルマからおりて母をマンションのエレベータに乗せた時、兄が私に、何しにここに来たのか、試しに聞いてみなよと言ったので
「お母さん、今から何しに行くんだっけ?」
と聞いてみると
「何いってるのよ。ヱナヨさんにおわかれに来たんじゃない」とこたえたので、兄とふたりして、今日のお母さんはちゃんとしてると思わず笑ってしまいました。
そして、部屋に入ると、母は真っ先にヱナヨさんに駆け寄り、まず腕をまわしてやさしくハグしたかと思うと、手のひらでヱナヨさんの顔をやさしくなでながら、悲しい顔でおわかれしてました。そして、最後にヱナヨさんのほっぺにキスをしたので、私はとても驚きました。
母がそこまで感情を表に出して、しかも大胆にキスまでするなんてことは、これまでただのいっぺんもなく、そう、父とのおわかれの時ですら冷静でクールだったのに、その日の母の様子はまるで幼女のようでした。
そういえば、最近、認知症が進んできた母は、会話のキャッチボールはあまりできなくなってきたけれど、お顔があどけなくて、甘いものを口に頬張る時はちっちゃい子のようで、その可愛さに思わず見とれてしまう私でした。
年をとるとだんだんと赤ちゃんのように可愛くなってくるんですよね。
この日、母は、今は亡き父の代わりに、大切なヱナヨさんの最期におわかれをしてくれました。葬儀には参列できませんでしたが、真っ先に駆けつけた母のことをヱナヨさんもきっと喜んでくれているのではないかと思いました。