今日もぽれぽれ

「ポレポレ」とはスワヒリ語でのんびり、ゆっくりという意味です♡

たたけば直るのよ

私の小さい頃のテレビは、ちょうどいいところで突然映りが悪くなることは日常茶飯事でした。誰が始めたのかわかりませんが、当時のひとはそんな時テレビの横っ面をたたき衝撃を与えて直したものでした。どうして直るのか理屈はわからないけれど、親も子も機械というものは調子が悪くなったら、まずたたくみたいな風潮がありました。

 

先日まで放映していたNHKの『カムカムエヴリバディ』でも、大月家のテレビの具合が悪くなった時、お母ちゃんが一発たたいて直したシーンがあり大笑いしてしまいました。

 

ある日、奥様がご自身のおクルマでスーパーに買物に行くと言いだしました。そして、私は奥様に同行するように言われたので、奥様と一緒にマンション下の駐車場へ降りました。普通の国産のクルマかと思ったら、生意気にも(失礼!)BMWの車種でした。今はあまり見かけないような肌色に近いベージュカラーで、見た感じややクラシックな左ハンドルのBMWでした。

「左ハンドルなんですか?」

「そうやねん。これで箱根までもひとり運転していくのよ」と自慢げに話す奥様。毎年苗場にひとりでスキーにも行っていると話していたくらいなので、見た目とは違い(失礼!)運動神経はかなり良いのかもしれないと、ちょっと奥様を見直して助手席に乗り込みました。

日が少し影り始めた夕方近くだったと思います。エンジンをかけて、さあ出発するのかという時のことです。

 

 

そうなんです。奥様がエンジンをかけても、メーター表示のランプがつかないのです。奥様は「あら!」とかなんとか言うと、いきなりメーター表示の箇所をゲンコツでドンドンと叩き出したのでした。そして「ダメだわ。つかないけど、ま、近所だからいいか」と駐車場を出て走り出してしばらくすると、フロントガラスに雨粒がつき始めました。

「奥様、雨が降って来ましたね」

「えーと、ワイパー、ワイパーは?」と探してスイッチを入れたら、実にぎこちない動き。しかし、そんなことはしょっちゅうあるようで、奥様は全くおかまいなしで走っていたら、ついにワイパーはフロントガラスの途中で止まってしまいました。

すると奥様は、先ほどと同じ要領で「たたけば直るのよ」と言うと、フロントガラスをげんこつでドン!と一発、二発。不思議と最初はそれで直ったのでしたが、すぐにまた止まってしまいました。奥様は運転中なので、私にフロントガラスをたたいてみてと言うので、私も両手でバンバンとたたいてみましたが、ついに途中で止まったままになってしまいました。

そんな状態で走るのは不安だったのですが、さらに追い討ちをかけるように、外気との温度差でフロントガラスが曇り始め、ハンカチでキュッキュッとふきまくる奥様。近所のスーパーまでやっとの思いで着くと、駐車は出来ないらしくスーパーのひとに入れてもらってました。スーパーまで歩いて行けなくもない距離でしたが、奥様が運転するクルマでのドライブは生きた心地がしませんでした。

 

その奥様の愛車は、マニアックなひとなら垂涎もののクラシックカーだったようで、当時のチャラい秘書のひとりが「奥様が新しいクルマに乗り換える時、僕はあのBMWを譲ってもらうんだ〜」とニコニコ話してました。

そうか、秘書は奥様のクルマに乗車したことないんだなと思いました。私だったら、奥様のゲンコツ手垢まみれの癖の強いBMWは譲ってもらっても絶対に乗りたくないですけれどね。まあ、チャラい秘書があの不穏極まりないクルマに彼女を乗せてドライブに行く姿を想像したら、ちょっと楽しくもありました(笑)