大物政治家の別荘に行く!
奥様は前もってあまり予定を話しません。
ある日、私は奥様とご一緒に箱根にある温泉付きの別荘に行くことになりました。ワーイ!温泉に入れる!と、上機嫌だった私は、奥様という人をまだちゃんと理解していませんでした。
別荘はにぎわいのある観光地から少しはずれたところにありました。静かで、ススキが多く生い茂っている土地です。周囲は、企業の保養所やこじんまりしたホテルがあるだけ。そして、大物政治家さんの別荘はというと、豪華な外国の山小屋風で、大きな梁をめぐらした重厚なインテリアで、それはそれは美しい別荘した。そして、この別荘には、ここを管理するご夫婦がいらして、その奥方が食事のしたくや、お風呂の準備など細々としたお世話はしてくださるとのことでした。家政婦みたいな仕事じゃなくてラッキー!
着いて、私に別荘内を案内してくれた奥様は、ここの応接間は床暖房なのよとおっしゃり、それが大層ご自慢のようでした。当時はまだ床暖房も珍しく、たしかに、床がホカホカと暖かく、とても心地よいものだと思いました。
奥様は一息つくと、「せやせや、洗濯物!」とおっしゃり、応接間に洗濯物を運びました。
「何してんの、突っ立てないで、早くこの洗濯物を一緒に床に広げて!ただつけてるだけじゃもったいないからね」
別荘に持ってきて乾かそうと、乾ききらない洗濯物を持って来たのか?
「でも、そんなことして、お客様が見えたらどうするんですか?」と私が聞くと
「そんなの、サーっと片付ければえやないの!」と奥様
美しい応接間の家具と家具の隙間に、先生の下着が!
「もう〜、うちのひと、大きいから洗濯物がなかなか乾かないのよ」と奥様
先生のお寝巻きの大きな浴衣まで!広くて素敵なインテリアの応接間が、あっという間に洗濯物で散乱した状態になりました。奥様は「お部屋は温いし、洗濯物は乾くし、一石二鳥や」と、いつもの上機嫌。
さて、今回別荘に来た本当の目的は、東京ではなかなかゆっくりお話できない方に別荘までお越しいただき、先生とお話をするというもので、私はどうやらその接客のお手伝いのようでした。先生だけは、よく週末ゴルフをしに別荘にはいらしていたようですが、今回はゴルフ抜きだったので、私たちの後に、先生が東京から別荘にお越しになるというご予定でした。
玄関でピンポンと音がなり、先生かと思いきや、お客様の方が先にお着きになり、奥様はニコニコと玄関でお出迎え。そして、あの、例の応接間にお通ししようとしているではないですか!そう、奥様は、案の定、床にぶちまけた洗濯物のことをすっかりと忘れていたのです。
脇でその様子を見ていた私、大ピンチに心臓がバクバク鳴りだしました。どうしよう、どうしよう、先生のブリーフがあっちにもこっちにも散乱しているというのにーーー!!
とっさに、お客様には大変失礼かとは思いましたが、私は奥様がどうぞとお客様に差し伸べた手の下をくぐりまして、応接間の床を這いずり回り、洗濯物を拾う!拾う!ものすごい速さで!もう、床の洗濯物をわしづかみでガーっとかき集めて胸に抱きかかえ、「失礼しました!」と言って、応接間から脱出したのでした。
お客様へのお茶出しの準備をしていたところに、応接間から出て来た奥様に向かって
「勘弁してくださいよ、奥様。だから、お客様が見えたらどうするんですかと言ったじゃないですか!」というと、奥様はケタケタ笑いながら
「ちゃーんと、あんた、拾い集められたじゃないの」と。
大物政治家の奥様は、物事に動じないんですよねえ〜。
そのぶん、私の寿命が縮まりました。はい